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ほっと一息 人生コラム
vol.45 永井荷風「墨東綺譚」を読んで ぼくとうきたん、「隅田川東岸の物語」という意味らしい。 東京にあった私娼(無許可の闇営業的な娼婦)の街、玉の井(現東京都墨田区)を舞台として描かれた随筆的な小説。 昭和11年、日華事変、勃発直前の重苦しい世相の中で、娼婦との交情を題材とした荷風の代表作。「日本はアメリカの個人尊重もフランスの伝統尊重もない」と考えていた荷風だ。きっとこの作品にも、江戸の下町情緒を残す文化を無視した全体主義に突き進む状況に対する批判や風刺があったに違いない。 しかし、それよりもこの作品の魅力は、売春防止法施行前の風俗と、玉の井という土地柄と、放蕩を繰り返す荷風の息づかいが伝わるところに興味がいく。 物語は、玉の井で出会った娼婦雪子と、老小説家大江匡の男女の交わりと離別が儚 く描かれてる。展開は淡々としている。小説の中でもう一つの小説『失踪』の草案も描かれている。まさに、この老小説家大江は荷風自身なのだ。 そんな中で印象深いのが、大江と、娼婦雪子が初めて出会うシーン。 ”いきなり後方から、「檀那、そこまで
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2月4日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.44 森鷗外「牛鍋」を読んで 思わず箸を伸ばしたくなる「牛鍋」を初めて読む。1,800字ぐらいの作品はあっという間に終わる。読み終わった後に、どういうことなのだろうと考える時間が好きだ。 <内容>夫を亡くした女とその幼い娘と亡き夫の友人である男が牛鍋を囲んでいる。男は一人でひたすら箸を動かし牛肉を口に運んでいる。女は「永遠に渇しているような目」で男の動くあごを眺めている。幼い娘は箸を持って牛肉を食べる機会をうかがっている。 幼い娘が牛肉を食べようとすると、「待ちねぇ、それはまだ煮えちゃいねえ」と決まって男が止める。幼い娘は箸を持った手を引っ込める。やがて、どの肉もよく煮えているころ、幼い娘は男に構わず箸を動かし始める。男のすばしこい箸が一層すばしこくなる。「永遠に渇しているような目」をしている女の箸は最後まで動くことはなかった。 語り手は、「牛鍋」を囲んだ3人の様子から、猿の母と子が芋を奪い合う光景を思い出す。そして、「人間は猿より進化している」で終わっている。(内容おわり) 「鍋はぐつぐつ煮える」の書き出しから、スーッと
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1月14日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol. 43太宰治「駆け込み訴え」を読んで イスカリオテのユダ(新約聖書に出てくるイエス・キリストの弟子のひとり)の視点で、「旦那さま」という誰かよくわからない人に、イエスに対する感情を述べるという形式で書かれていた。 混乱するユダの苦悩やその感情に至った経緯を太宰なりの言い回しで表現している。そこがおもしろい。しっかりと読んだ記憶がない新約聖書や「ユダの福音書」にも興味を持った。 太宰の小説の中では、「私」であるユダが、「あの人」であるイエスの酷さを、官憲であろう「旦那さま」という人に、切々と訴える。 「あの人を私の手で殺して私も死ぬ」と。 「過去にはあの人に尽くして愛情を持っていたこともあったが、あの人は変わってしまった」と。 そして、「弟子たちの足洗いの場面で、イエスの言動がユダの気持ちを決定的にした」と。 イエスは弟子たちを前にして「みんなが清ければいいのだが・・」と、この弟子たちの中には裏切り者がいることを悟っているかのようにいう。そして、弟子たちの口に一切れのパンを入れたものがその者だとして、イエスはユダの
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2025年12月9日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.42 D.J.サリンジャー「ライ麦畑でつかまえて」を読んで (野崎 孝 訳) 大人のインチキは、社会生活を営むための潤滑油ぐらいに思っている僕が、インチキを嗅ぎ分けてその欺瞞性を暴こうとするホールデン少年にどこまで入っていけるか、この驚異的なベストセラーを初めて読んだ。 高校を退学させられた16歳の少年、ホールデン・コールフィールドが、ニューヨークの街をふらついた時の、悪夢のような3日間の追憶が、湧き上がるように語られていた。一人称で軽快に語る17歳になった彼の言葉は、神経症的で、独特な重苦しい「孤独感」と「優しさ」に満ちていた。 ホールデンは、口は達者だけどコニュニケーションは下手だった。すぐに嘘をつくし、ヘビースモーカーで女好き。大人はみんな敵で、学友とも喧嘩ばかり。一方で、公序良俗的な大人の言葉は嘘っぱちだと見抜き、これを暴こうとする清さに心地よさを感じた。「ステキ」という言葉にインチキなにおいをかぎとる臭覚に、16歳を感じた。 16歳のころの僕はどうだっただろうか。多感な思春期特有の「苦悩」を覚えている。 ...
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2025年11月4日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.41 太宰治「グッド・バイ」を読んで 著者が自死の直前まで執筆していた、朝日新聞連載の未完の小説。これがまたコミカルな作品で、続きが読みたなる内容だった。あらすじ主人公は、34歳、雑誌編集長の田島周二。闇商売で、しこたま、もうけている。彼は愛人を10人近く養っている...
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2025年10月1日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.40 梶井基次郎「ある心の風景」を読んで 梶井基次郎の憂鬱は清い。ぐっと深く内面を見つめ、ふっと浮かんだ気持ちを風景に溶かして描く。その詩情豊かな感覚に引き込まれる。 『檸檬』も『城のある町にて』も、自分の気持ちをそこにある風景と対比させながら、静かに描く。ずっ...
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2025年9月4日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol. 39太宰治「火の鳥」を読んで 人生をやり直そうとする女性の物語だった。この作品、太宰の、心中して自分だけが生き残ってしまった経験が動機となっているように思う。しかし、未完のまま終わっている。 <内容> 銀行を襲った須々木乙彦というテロリストが、カフェの女給・高...
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2025年8月11日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.38 遠藤周作「海と毒薬」を読んで あまりに暗い色調ばかりで、どんよりとした気分のまま読み終わった。 作品は、戦争末期、大学病院で実際に起きた米軍捕虜の生体解剖事件(いわゆる相川事件)を題材にしたものだった。あらすじについてはウィキペディア「海と毒薬」に託す。...
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2025年7月15日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.37 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」を読んで 読み終わり、本を置き、目を閉じる。心にしっくりしない疑問が浮かぶ。 なぜウェルテルは、自殺を決意したのだろうか。 人を愛することと死がどうして結びつくのだろうか。 ...
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2025年6月3日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.36 ショーロホフ「人間の運命」を読んで 1956年にソビエト連邦共産党機関紙に掲載された、ノーベル文学賞作家ミハイル・ショーロホフの作品。タイトルにつられて初めて読んだ。 あらすじ 第二次世界大戦が終わって初めての春の日、幼い少年を連れたソ連のトラック運転手ア...
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2025年5月7日読了時間: 3分


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vol.35 谷崎潤一郎「刺青」を読んで 惚れ惚れするような文章が、奇妙な内容をさらに際立てていた。 谷崎潤一郎をそんなに読んではいないけれど、どれも浮かんでくる映像は、どこか妖艶で耽美的な、それでいて狂気じみている。この作品にも、肉体を傷つける残忍さと自虐的な快楽...
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2025年4月3日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.34 向田邦子「思い出トランプ」を読んで ポンポンと歯切れのいい言葉が映像になる。感覚の表現や感情の言葉にも共感する。懐かしい風景にうなずく。昭和のブラウン管が浮かぶ。オノマトペが軽妙で、音までが聞こえてきそう。100年前のまどろっこしい文章ばかりを読んでいたので、...
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2025年4月3日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.33 サン=テグジュペリ「夜間飛行」を読んで(二木麻里訳) この犠牲はきっと未来に役立つ。 いま生まれた赤ちゃんがいる。いま死んでいくおじいちゃんもいる。おじいちゃんが頑張ってきたことはきっと誰かの役に立つ。いま生まれた赤ちゃんの役に立つ。ずっと前から社会はそう...
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2025年2月13日読了時間: 3分


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vol.32 大江健三郎「奇妙な仕事」を読んで 大学病院に実験用として飼われている犬150匹を撲殺するアルバイトの話。 この小説は、ノーベル文学賞作家大江健三郎が初めて世に出した作品で、1957年5月東京大学新聞に掲載されたとのことだった。 ...
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2025年2月13日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.31 チェーホフ「かもめ」を読んで(神西清訳) 本文ずっと若いころ、何度かアングラ風の演劇を見たことがある。小劇場から伝わる印象はどれも暗かった。人間の心の奥にある葛藤を誇張的に独白したものや、理不尽な社会を描きながら誰かに共感を求めるように手を広げ、薄暗い舞台に...
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2024年11月26日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.30 森鷗外「青年」を」読んで 二十歳の頃の自分を思い出す。 人間関係の不器用さから、女性にどう見られるかばかりを気にしていた。大きな主語で語ることで、正直な自分の気持ちを隠していた。思い通りにならない自分が悔しくて、情けなく歩いていた。 ...
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2024年11月26日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.29 太宰治「トカトントン」を読んで 幻聴の「トカトントン」。どこからともなく聞こえてくる「トカトントン」という金槌かなづちの音。発狂ギリギリまで追い詰められた26歳の復員青年の耳に響く「トカトントン」。創作とか仕事とか恋愛とか、何かやる気が起きると必ず「トカトント...
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2024年10月9日読了時間: 2分


ほっと一息 人生コラム
vol.28 川端康成「千羽鶴」を読んで 名作と名高いこの小説、伝統的な陶器の美しさを絡めながら、愛と罪と死が漂う作品だった。これぞ川端作品だと感じながら、繊細で美しい文章と描かれた世界を楽しんだ。 <内容>主人公、三谷菊治は25歳ぐらいの独身の会社員。父と母を相次いで...
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2024年8月29日読了時間: 3分


ほっと一息 人生コラム
vol.27 西村賢太「苦役列車」を読んで vol.27 西村賢太「苦役列車」を読んで 西村賢太が中学卒業後の日々の暮らしをもとに書いた小説。大半が事実だという。2011年の芥川賞受賞作。 <内容>主人公は北町貫多、19歳。中学卒業後、日雇の港湾人足仕事につく。友...
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2024年8月15日読了時間: 3分


加藤政実のNEWSコラム(2024年7月)
「「J・ロバート・オッペンハイマー」その光と影」 どうしても映画館で見たい映画があった。「オッペンハイマー」クリストファー・ノーマンの劇場長編作品の12本目。いつも通り本人が脚本を書き制作監督を行う。本年度アカデミー賞最多7部門受賞作品である。ほぼ10年ぶり、シネコンでラス...
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2024年7月9日読了時間: 5分
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